運送業はブラックと言われることが多い業界ですが、近年は運送業界へ転職を検討する方が増えています。市場が安定していることや、運転免許があれば未経験でも転職しやすいこと、1人で黙々と作業できることに魅力を感じるなどが主な理由です。
運送業界といっても業種や職種は様々です。まずは「運送業界にはどんな種類があるのか」「何を行っているのか」「どのように利益を出しているのか」を知ることで、業界分析や企業分析がしやすくなり、自分に合った仕事を見つけやすくなります。
今回は運送業界の種類や将来性、具体的な仕事内容から会社選びの方法までを網羅的にまとめました。運送業界の知識を深めたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
運輸業の特徴
運輸業界は生産者から消費者まで「モノ」を届けたり、「人」を送迎する仕事をしています。運輸業界では、モノを運ぶ「貨物運送業」と、人を運ぶ「旅客運送業」に分けられます。基本的に「運送業」と言うときは、トラックを使ってモノを運ぶ貨物運送業のことを指します。
貨物運送と旅客運送にはそれぞれに「陸運」「海運」「空運」「鉄道」の輸送手段があり、日本では自動車を使ってモノや人を輸送する陸運が一般的です。
運輸業のビジネスモデル
運送業界は「モノや人を運んで運送料をもらう」というシンプルなビジネスモデルです。しかし、収益性を上げるためには「効率良くトラックを稼働させること」「集荷から荷下ろしまでの工程を効率よく行うこと」が非常に重要となります。そのために積載率、稼働率、実車率をあげるのはもちろんのこと、最近ではIT技術を利用した諸管理も必須となりつつあります。
運輸業界の市場規模
運送業界の市場規模は、総額約28兆5千億円と非常に安定しています。その中でもトラック運送業は19兆3千億円を占める大産業です※1。近年は宅配便の需要が大幅に増加しており、取扱個数は約49億個に上ります。そのうちトラックが配達する個数は48億個です※2。
EC市場は今後も順調に拡大を続けていくと予想されます。そのため、運送の需要はなくならないと考えることができます。
※1 令和2年度 我が国の物流を取り巻く現状と取組状況. 国土交通省. p6, https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001514680.pdf, (参照:2023/12/15)
※2 令和3年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法. 国土交通省. p2, https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001494501.pdf, (参照:2023/12/11)
運送業界の種類
貨物運送事業
貨物(モノ)の運送を生業とする事業です。日本の貨物の約9割はトラックが運んでいることから、「陸運」が私たちにとって一番近い存在ではないでしょうか。代表的な陸運会社は日本通運、日本郵政、ヤマトHD、SGホールディングス、日立物流などが該当します。
旅客運送事業
旅客(人)を運ぶ事を生業とする事業です。中でも、旅客バスやタクシーといった陸上輸送は通勤や通学、ちょっとした移動など、人々の様々なニーズに対応する輸送手段として一般的です。
貨物運送事業の種類
貨物(モノ)の運送を生業とする貨物運送業は、「一般貨物自動車運送事業」「特定貨物自動車運送事業」「貨物軽自動車運送事業」の3種類に区分されています。それぞれどのような違いがあるのかを解説します。
一般貨物自動車運送事業
軽貨物自動車や自動二輪を除いた貨物自動車を使用して行う運送事業のことです。具体的には、1、4、8の営業ナンバーをつけた自動車が一般貨物自動車です。「許可制」の運送業なので、開業する際には営業所を管轄する運輸局長の許可が必要になります。
特定貨物自動車運送事業
一般貨物自動車運送事業と同様に、軽貨物自動車や自動二輪を除いた貨物自動車を使用して行う運送事業です。一般貨物と異なる点は、取引先(荷主)が特定の1社限定であることです。この事業に分類される企業は、アサヒやコカコーラなどメーカーや商社の配送を担当する系列会社であることがほとんどです。
貨物軽自動車運送事業
軽自動車や自動二輪を使用して行う運送事業のことです。「黒ナンバー」と呼ばれる、黒地に黄色文字のナンバーをつけた自動車を使用します。会社を立ち上げる必要がないため、個人事業主として運輸支局に申請し、「事業用自動車等連絡書」を発行してもらえれば始められることが特徴です。
貨物運送業界の現状
働く人の70%が40歳以上
日本では社会全体が少子高齢化しているため、どの業界でも高齢化は進んでいます。しかし、貨物運送業は他の業界に比べても若年層の割合が低い傾向にあります。貨物運送業で働く人口は201万人のうち、約76.1%が40歳以上です。また、29歳以下の若年層は全体の9%以下とされています※3。
※3 労働力調査年報(令和4年分). 厚生労働省. 2023-05, I-B-第5表, https://www.stat.go.jp/data/roudou/2.html, (参照:2023/12/07)
慢性的な人手不足
貨物運送業界ではトラック運転手の慢性的な人手不足が続いています。2023年4月のトラック運転者の有効求人倍率は2.43%※4で、全職業の平均(1.13%)よりも2倍以上も高い結果です。運送業では1つの求人に対して2人以上の応募があるということになりますが、応募と採用がうまくマッチしていないという状況が、人手不足の原因の1つである可能性があります。
※4 一般職業紹介状況(令和5年4月分). 厚生労働省. 2023-05-30, 参考統計表7-1, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33283.html, (参照:2023/12/07)
ドライバーの拘束時間は21時間
人材不足や高齢化の背景には労働時間の長さや労働条件の厳しさも挙げられます。令和3年の国土交通省の調査によると、短・中距離(500km以下)ドライバーの平均拘束時間は約10時間、長距離(500km超)ドライバーの平均拘束時間に至っては約21時間という結果になっています※5。
※5 トラック輸送状況の実態調査結果(概要版). 国土交通省. p12, https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001409523.pdf, (参照:2023/12/07)
貨物運送業界の将来性
貨物運送の需要は伸び続ける
運送業界では自動配送ロボットやドローンの活用は検討されているものの、まだまだ実用化への道のりは長いと言われています。いまだに、宅配便のうちでトラックが取り扱う個数は9割以上です※6。宅配便の個数に大きく関係しているEC市場は、今後も拡大を続けていくと予想されていることから、運送の需要はなくならないと考えることができます。
※6 令和3年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法. 国土交通省. p2, https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001494501.pdf, (参照:2023/12/11)
法改正による労働環境の改善
人材不足や高齢化の背景には労働時間の長さや労働条件の厳しさも挙げられます。そのため、運送業では労働基準法の法律改正が急速に進んでいます。ポイントは時間外労働と拘束時間(労働時間と休憩時間の合計)の上限規制です。実際に2024年4月から時間外労働の上限規制と改正改善基準告示が適用されました。ドライバーの時間外労働は年間960時間が上限となります。また、拘束時間は1日13時間以内が基本となり、延長する場合も上限は16時間と定められています。
トラック運送業への就職・転職を希望している人の中には、過酷な労働環境に不安を感じる方も多いのではないかと思います。しかし、これらの法改正によりトラック運転手の労働環境は大きく改善されると考えることができます。
労働時間の改善で年収が下がることも
過酷な労働環境には法律改正による改善の兆しが見られます。一方で、時間外労働時間の上限規制で労働時間が減少すると、これまでよりも年収が下がる可能性があります。運送市場は安定しているものの、年収が高くなるかどうかについては不透明というところが複雑なポイントとなります。
貨物運送業界は、走行距離や宅配の個数などの歩合制度を採用していることが多いです。例えば、佐川急便は「高収入が見込める職場」として知られていましたが、近年は労働時間の見直しが行われたこともあり、歩合制度では稼ぎにくい状況になってきます。
貨物運送業の主な職種
トラックドライバー
運送業の花形と言われるドライバーの主な業務は配送、宅配、引っ越しなどの業務です。
運送業で仕事を始める場合は、ドライバー職や仕分け作業からスタートすることがほとんどです。一般的な仕事内容は集荷、荷積み・荷下ろし、配送・配達、梱包や伝票作成などです。長距離配送や担当制のルート配送(個別企業、コンビニやスーパーなど)、宅急便などの宅配、引っ越しなど運送会社によって業務内容が異なります。
ドライバーは保有する免許で扱えるトラックが異なります。一般的に、引越しや宅配業務であれば、小型トラック(普通免許)、あるいは、中型トラック(中型免許)を持っていればすぐに仕事ができます。一方で、長距離輸送業務では10トンクラスの大型トラック(大型免許)が必要になります。
運送業では車両が大きくなるにつれて給料も上がることがポイントです。また、業務によっては「フォークリフト運転技能講習修了証」、灯油・ガソリン、ガス、薬品などの運搬をするための「危険物取扱者」などの別資格が必要です。大型免許や危険物取扱者などの資格保有は、運送業でキャリアアップを目指す際に有利となります。
運行管理・安全運転管理者
運行管理者や安全運転管理者の主な業務は、運転手の安全運行を目的とした諸管理です。例えば、運転手の勤務表やシフトの作成、運転指示書の作成、乗務の記録、車両の点検や整備、天候や工事区間の情報整理、それらを元にした配送ルートの作成などです。また、休憩時間などの労務管理や運転講習を通した安全指導などを行うこともあります。運行管理や安全運転管理者は運転手の安全を守る労務のキーマンとも言えます。
安全運転管理者との違いは、管理する車両の種類です。運行管理者は業務用車両の管理を行い、安全運転管理者は乗用車(事業所の共有車など)の管理を行います。
運送業では、運行管理者を「1つの企業で1人は雇わないといけない」という決まりがあります。また、営業所の車両が29台以下の場合、必要な運行管理者は1人ですが、車両が30台追加されるごとに運行管理者を1人ずつ選任する必要があります。運行管理者は国家資格も必要になるため、転職の際は求人を探しやすい職種の1つです。
配車管理者
配車係の主な業務は顧客の依頼に合わせて運転手に仕事を振り分ける仕事です。例えば、荷物情報の整理、それを元にした配車や配送ルートの計画、運転手へのリアルタイムの指示出し、同業者への協力依頼などです。先ほどの運行管理者と兼任することもあります。配車管理者は配車を効率化する実務のキーマンとも言えます。
会社によって条件や賞与の有無、手当などは異なるため、配車係を目指す場合は事前に詳細を確認するとよいでしょう。
整備管理者
整備管理者の主な業務は会社が保有する車両の管理と車両事故の防止です。例えば、車両の定期点検や日常点検、整備、車検のスケジュール作成、車両台数の確認、車両管理台帳の作成、運転者、整備員への安全指導などです。
道路運送車両法で定められている通り、自動車運送事業を営む企業は自動車5両以上で1名の整備管理者が必要です。つまり、整備管理者も運行管理者と同様に、1つの企業で1人は雇わないといけません。また、整備管理者になるには自動車整備士技能検定の一級、二級又は三級資格が必要になることがあります。運行管理者と同様に、整備管理者も企業側が求人を出しやすい職種の1つです。
貨物運送業でのキャリアパス
専門的な免許を取得する
運送業界でステップアップをするには、大型・特殊車両の免許を新たに取得することがおすすめです。基本的に、運送業では運転する車両が大きくなるにつれてお給料も上がるからです。また、フォークリフトの資格や危険物取扱者などの資格を取得すると手当がついたり、転職の際にも有利になります。
運行管理者などの職種を目指す
ドライバーとしてキャリアアップを目指す以外にも、企業の中でマネジメントを行う管理職へ転向することも可能です。特に、運行管理者は「1つの企業で1人は雇わないといけない」という決まりがあります。国家資格である「運行管理者資格者証」が必要となるため、運送業界では求められる人材と言えます。セールスドライバーの経験があれば、営業職へのキャリアチェンジなども考えられます。
条件の良い企業に転職する
大型免許やフォークリフトなどの専門的な資格を持っている場合、転職がきっかけでお給料が上がったり、福利厚生の面で条件の良い企業に転職することが可能です。求人に記載されている必須資格や資格保有者への優遇面はしっかり確認しましょう。
運送業への転職は会社選びが大切
ブラック企業を見極める方法
業界未経験の方にとって、運送業界の企業選びは判断が難しいことがあります。しかし、規模が大きい会社の方が待遇が手厚い。求人の文句が大げさなところは怪しい。など基本的な部分は同じです。以下のような求人の特徴には注意が必要です。
求人の注意リスト
いつも求人が出ている
相場より高すぎる給与設定
求人の文句が大げさ
対応の感じが悪い
トラックがボロボロ
徹底した情報収集が大切
未経験の方がブラック企業への就職を避けるポイントは、徹底した情報収集です。転職や就職活動の過程で、少しでも違和感があれば応募を見送ることが大切です。また、運送業界が未経験の場合、福利厚生制度や勤務体系が整っている運送会社を目指すことをおすすめします。
求人で確認することリスト
運ぶ荷物の種類
運転するトラックの大きさ
1日の走行距離
積み下ろしの形態
主な取引先企業
社会保険への加入の有無
福利厚生制度の有無